ブックタイトル妊娠期がん診療ガイドブック

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概要

妊娠期がん診療ガイドブック

2131 ● 妊娠期乳癌─妊娠初期診断症例─治療方針決定までの思考プロセス!非妊娠期と同じような治療(optimal therapy)ができるか?本症例は腋窩リンパ節転移を有するトリプルネガティブタイプの乳癌であることから,非妊娠期乳癌の場合は術前化学療法を先行し,その後に手術,放射線療法が計画される場合が多い.術前化学療法のレジメンとしては,アンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤の逐次療法が用いられる〔例:AC 療法(ドキソルビシン60 mg/m2,エンドキサン600 mg/m2)3 週ごと投与を4 サイクル→パクリタキセル療法(80 mg/m2)毎週投与を12 サイクル〕.トリプルネガティブ乳癌の場合は進行が速い可能性があるため,可能な限り速やかな治療導入,そして治療強度(dose intensity)を保つことが推奨される.妊娠中のアンスラサイクリン系薬剤の投与については,これまでの報告から安全性データが蓄積されてきているが,妊娠中のタキサン系薬剤の投与についてはデータが蓄積されてきてはいるものの,まだ十分に安全とは言い切れず,妊娠中の投与に関しては例外的な状況でのみ考慮すべきである.本症例が妊娠を継続しながら術前化学療法を選択した場合,アンスラサイクリン系薬剤の最終投与後に分娩を計画し,その後にタキサン系薬剤を投与することになる.アンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤の間に,分娩,産褥期をはさむことから,十分な化学療法の治療強度(dose intensity)は保てない.また,分娩・産褥期間中に腫瘍が増大するリスクがある.これらから,術前化学療法を選択するよりも,手術を先行し,その後に術後化学療法を行うほうが腫瘍学的な安全性が高いと考えられる.本症例に対する乳房の術式は乳房全摘術と,乳房部分切除術のどちらも候補にあがる.腋窩リンパ節にすでに転移があることがわかっているので,乳房の手術と同時に腋窩郭清術も行う.これらは非妊娠期と妊娠期とで方針変更はない.麻酔方法は,非妊娠期がんであれば全身麻酔が推奨される.一方,妊娠初期症例に対する全身麻酔下の手術による児への長期的な影響については,まだ不明な点もあることは説明をする必要がある.進行度によっては局所麻酔が選択される場合もあるが,本症例では腋窩リンパ節転移を有する進行症例のため,根治性を高めるためにも全身麻酔の ほうが適していると思われる.分娩方法は,乳癌が合併していない場合は通常の自然分娩が選択される.しかしながら,本症例では前述したように,アンスラサイクリン系薬剤の投与とタキサン系薬剤の投与の間に分娩が予定されていることから,タキサン系薬剤の投与開始が非妊娠期より遅れるというデメリットがある.その遅れを可能な限り短くする目的で,37週1 日が過ぎた時点で,誘発分娩を計画した.一般的に誘発分娩のリスクとして,陣痛促進薬(オキシトシン,プロスタグランジンなど)による副作用や,頻度は低いものの誘発不成功となり帝王切開に移行することがあげられ,この点は自然分娩との違いになる.患者さんに必ず説明すること本症例は初診時に妊娠8週であり,比較的安全に手術を施行できる妊娠14週まで待つという点で,非妊娠期がんに比べ治療開始が遅れるというデメリットがある.また,ト