ブックタイトル症例に学ぶ がんの漢方サポート
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症例に学ぶ がんの漢方サポート
3第1章 癌診療と漢方医学内科,外科)の履修を必須としたため,明治の終わりには,西洋医学を学んでいない「漢方医」は消滅した.その結果,漢方はわが国の医学の表舞台から姿を消し,西洋医学を学び,さらに漢方も学んだ少数の医師が漢方の命脈を保っていた. 明治100 年にあたる1967 年,当時の日本医師会長・武見太郎,漢方学術界の大塚敬節,漢方製薬業界の津村重舎らの尽力により,漢方エキス製剤4処方が薬価収載された.その後現在までに148 処方が薬価収載され,漢方はわが国の正規の医学の一部として復活した. 1980 年頃から,漢方医学の科学的研究が行われるようになったが,現在に至るまで基礎研究が中心であり,インパクトのある臨床研究は少ない. 2001 年には,将来医師となる医学生に教育すべき内容の指針である「医学教育モデルコアカリキュラム」の到達目標として「和漢薬を概説できる」という一文が盛り込まれ,ついで2010 年の改訂版では「和漢薬(漢方薬)の特徴や使用の現状について概説できる」と変更され,すべての医科大学で医学生に何らかの漢方医学教育が行われるようになった. 漢方は日本独自の生薬医学であり,わが国固有の文化遺産である.今後第三の革新をさらに推進することにより,わが国からユニークで価値ある治療医学を世界に発信することが可能となる. そのための試みとして,筆者は2006 年にがん研有明病院に「漢方サポート外来」を開設した.現在までの8 年あまりの経験から,現在の癌医療に不足する部分を「漢方+α」で補完すると,きわめて質の高い新しい癌医療が構築できるという確信を持つことができた. 本書では筆者が漢方サポート外来で得たさまざまな知見を示し,将来の癌治療の理想の姿を描いてみたい.2 わが国の癌医療の現状と漢方の役割 わが国の癌医療は近年大きく進歩した.しかしその現状は,医師の立場からみた場合と患者の立場からみた場合では,大きく異なっている. 医師は,癌患者に対し,手術・放射線治療・薬物療法などの標準的癌治療を行う.その後の経過観察で,一定期間(固形癌では通常5 年間)無再発で生存すれば,治癒と判断する.癌が遺残した場合や治療後に転移や再発がみられた場合は治療を反復するが,「あらゆる」治療が無効となれば「Best supportive care(BSC)が相当」とし,患者を緩和ケア医に紹介する.医師は,これで自らの責任を果たしたと考える(図1). 一方患者は,治療による副作用や後遺症の苦痛に加え,転移・再発の恐怖に苦しむ.初回の治療で治癒しなかった場合や,経過観察中に転移・再発し,標準的治療が無効となり,緩和ケアを勧められた場合,「わかりました」と癌の治療をあきらめる患者は少ない.患者や家族の多くは,「癌のバイブル本」を読み漁り,インターネットで奇跡的な治療法を求めてさまよう「がん難民」となって,悪徳医師による「詐欺まがいの治療」や,無益・無効な「サプリメント」の被害者となる場合が多い(図2). このような癌患者の直面するさまざまな問題は適切な漢方薬により的確に解決できる場合が多い.漢方は「病気を治す医学」でなく,「症状を緩和する医学」だからである.漢方治療により,癌に伴う植物神経系の問題(全身倦怠感・食欲低下・不眠・便通異常・浮腫など)や治療に伴うさまざまな副作用や後遺症が改善し,患者の自然治癒力が発現し,多くの患者が癌と共存し,価値のある延命が可能となる.