ブックタイトル本人の意思を尊重する意思決定支援
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本人の意思を尊重する意思決定支援
48意思決定支援用紙患 者 背 景氏名:S さん病名:心不全,脳梗塞,大腿骨骨折,前立腺がん,腹部大動脈瘤年齢:95 歳性別:男性病状経過心不全の治療と前立腺がんに対してはホルモン療法を入院していた病院の外来に通院し治療していた.ある日,S さんは発熱し動けなくなったため,妻の友人が通っていた近所の診療所に往診を依頼し診察を受けたところ,肺炎と診断され腹部大動脈瘤も発見された.家族構成妻と2 人暮らし.子どもなし.他市に薬剤師の姪がおり,薬を取りに行くなど1 回/週の割合でS さん宅を訪問している.本人の意思過 去現 在未 来公団住宅に40 年在住.S さんは大変子どもが好きで世話好きでもあったことから,地域住民から実の親のように慕われており,毎日,住民の誰かが顔を見に訪問している.また,S さんもその訪問をとても楽しみにしている.腹部大動脈瘤が突然破裂する可能性があっても,最期まで家で過ごしたい.入院した場合,既往疾患の病状管理がしやすい,腹部大動脈瘤が破裂した場合,緊急処置が行える,妻の介護負担が軽減することが考えられる.在宅の場合,S さんが希望している慣れ親しんだ家で過ごせ,楽しみとしている地域住民の訪問も継続することができる.妻は通院による身体的負担がなく,S さんにいつでも付き添うことができる.医学的判断家族の意向Bp:128/78 mmHg,T:36.8 ℃,P:88 回/bpm,SpO 2:96%,Hb:12.0 g/dL,心胸比:68%,尿量:600 mL/日.腹部大動脈左外側方向に最大74 mm に達する大動脈瘤あり.下腸間膜動脈の閉塞と胆石胆嚢炎を起こしている可能性あり.腰背部と両大腿部~足背にかけて浮腫著明.肺雑音ないが両下葉,air 入り弱く,腹鳴も弱め.食事は高カロリー流動食を1缶/日摂取している.妻はS さんの意向に添い,最期まで家で過ごさせてあげたいと思っているが,自分も体が悪いので家で最期までみることができるか不安に思っている.姪はS さんを家で看取ることに賛成しており,できるだけのことを手伝いたいと思っている.支援のポイント本人は「腹部大動脈瘤が突然破裂しても,最期まで家で過ごしたい」と強く意思を表明しており,妻も姪も在宅療養には賛成していた.よって,在宅療養を継続するにあたり,妻がどのようなことに不安を感じているかを明確にし支援することであった.合意形成に向けた具体的アプローチ・結果①在宅医はS さん夫妻が,途中で気持ちが変わり入院を希望した場合も考え,入院していた病院に連絡し,入院の受け入れ体制を確保した.そして,S さんと奥さんに気持ちが変わっても大丈夫であること,どのようにでも対応できることを伝えた.② S さんは近所の親しい人が顔を見に来てくれることとテレビを見ること以外,特に何かをしたいという意思表明はなかったが,S さんの昔の趣味など何か興味や関心のあるものがないか会話の中から糸口を探った.奥さんには今後の病状経過を前もって話し,現実を受け止め病気に対する不安が軽減するよう支援した.③病状説明などは姪にも同席してもらい,その後の反応など,身体介護以外のことで連携をとった.地域住民は訪問に加え,食事の差し入れやトイレ介助などを自然に行っていたが,住民の訪問を楽しみにしているS さんと住民との人間関係が損なわれないよう,介護状況と介護頻度を把握するようにした.④ホームヘルパーの利用を開始したが,訪問に関わる人数をできるだけ少なくし,訪問看護師は診療所の看護師が4 人で担当し,訪問診療にも担当看護師が同行し,一貫したケアが行えるよう情報共有を密に行った.診療所は自治会長から公団住宅の担当医を依頼されていたこともあり,自治会長も積極的にS さんの家を訪問し近隣住民ともコミュニケーションをとっていたので,S さん夫妻の生活状況を把握するために自治会長とも連携をとった.