ブックタイトル治療100巻1月号

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概要

治療100巻1月号

Vol.100,No.1〈2018.1〉 45患者と地域を救う 新時代の処方箋る仕組みとして,社会的処方(social prescribing)への関心が広がりをみせている. ここでは,わが国の文脈に合わせた深化への期待とともに,イギリスにおける社会的処方をめぐる動向を簡単に紹介しておく.社会的処方とは1 社会的処方の定義 多様な記述がみられた社会的処方の定義2, 3)は,以下に収斂しつつあるようだ.その基本理念は,「人間中心性」,「エンパワメント」,「共創」の3点にある. 社会的処方とは──社会的・情緒的・実用的なニーズをもつ人々が,時にボランタリー・コミュニティセクターによって提供されるサービスを使いながら,自らの健康とウェルビーイングの改善につながる解決策を自ら見出すことを助けるため,家庭医や直接ケアに携わる保健医療専門職が,患者をリンクワーカー(link worker)に紹介できるようにする手段である.患者はリンクワーカーとの面談を通じて,可能性を知り,個々に合う解決策をデザインする.すなわち自らの社会的処方をともに創り出していく. ニーズに応じて,時に非医療的な選択肢も提示するというアイデアは,目の前にいる人にとってよりよい解を探索するあらゆる専門職にとって,なんら目新しいものではないだろう.イギリスにおいても,古くは1980年代にすでに社会的処方の仕組みが始動していたことが知られている. 2000年代に入り,慢性疾患をもつ人々の支援を,予防およびヘルス・ソーシャルサービスの統合などを強調して推進する潮流のなかで,保健省の白書『Our health,our care,our say(2006)』が,健康と自立の促進・ローカルなサービスへのアクセスの仕組みとして社会的処方に言及,国民保健サービス(National Health Service:NHS)の今後5年間のビジョンを示す『NHS Five Year Forward View(2014)』もこれと軌を一にするものであり,そのプライマリ・ケア版ともいえる『General Practice Forward View(2016)』においては,家庭医の負担軽減を図るうえでインパクトが大きい10の取り組みの1つとしても社会的処方が取りあげられた. こうして国レベルで社会的処方に対する関心と期待が高まるなか,2016年には全国的なネットワークが構築され,2017年現在,イギリス全土で100以上の社会的処方の仕組みが稼働しているとされる. 社会的処方の仕組みの主たる構成要素は次の3つである.① 患者の紹介を行う保健医療専門職 家庭医が最も多いが,診療所看護師,ソーシャルワーカー,薬剤師などの場合もある.健康の社会的決定要因を踏まえた診断などを行い,社会的処方にかかわる社会・経済・心理的ニーズを認識した場合には,リンクワーカーに紹介する.Ⅱ