ブックタイトル治療100巻6月号

ページ
11/16

このページは 治療100巻6月号 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

治療100巻6月号

Vol.100,No.6〈2018.6〉 673抗うつ薬・抗不安薬の前にこの方剤! 精神症状×漢方て全軍撤退し状況が好転するのを待つ.躁病エピソードは困難に対して鬨ときの声を上げながら全軍突撃して一点突破を図る.軽躁病エピソードは普通に攻めるよりも少し多く兵力を投入して数の力で乗り切る.混合状態は司令が行き届かず統率がとれないため,各自が慌てふためきバラバラに行動してしまう. 躁病エピソードと軽躁病エピソードは量的な違いのみと思われるかもしれないが,多く人員を投入して押し通すのと,背水の陣で全軍突撃をかけるのとでは,質的に異なると筆者は考えている.診断の難しさ 双極性障害は診断が難しい.患者さんは躁病・軽躁病エピソードの時に苦痛を感じないことが多いため,自ら受診するのは主にうつ病エピソードの時である.診察で問診をしても,躁病・軽躁病エピソードを語ってくれることは少ない.それは,自身でエピソードをエピソードと認識しないためである.しかも,双極性障害の発症はうつ病エピソードから始まることが多く,その時に受診されると “うつ病” と診断せざるを得なくなる.これを誤診と非難するのは酷であり,その時点で双極性障害と診断するのはかえって過剰診断の恐れがある.うつ病と診断され抗うつ薬が投与されると双極性障害は病状が不安定となり,気分の波の振れ幅が大きくなる.正しく診断され気分安定薬(双極性障害治療の主剤)が開始されるまで10年ほどかかるとする研究もある3).そのため以前,双極性障害の過少診断が話題となった.すなわち,双極性障害は見逃されている,という意見である.そうなると軽微な気分の揺れを軽躁病エピソードと捉えたり, “治療抵抗性” のうつ病を「これは診断が違う! 実は双極性障害なのだ!」と考え治療したりすることが増えてきた.しかも双極性障害は若年発症(25歳未満)が多く,若年者ではさらに診断されやすくなった.その象徴は,双極性障害と診断された4歳の女児が2006年にその治療薬によって亡くなってしまったという,アメリカの悲惨極まる事件であろう4).そのようなことがあり,必然的に今度は過剰診断が叫ばれるようになった.よって,精神科の診断基準であるDSM-5ではとくに小児において過剰診断とならないように,重篤気分変調症(Disruptive MoodDysregulation Disorder:DMDD)という診断名を新たに設けている. うつ病と双極性障害の治療は全く異なる.うつ病であれば抗うつ薬が主剤だが,双極性障害では気分安定薬がその座を占める.双極性障害に抗うつ薬を使用すると病状が安定しないことが多く,気分安定薬との併用ならいざ知らず,現時点では抗うつ薬の単剤治療は勧められていない.治療期間も,うつ病であれば寛解して一定期間が過ぎれば薬剤の減量中止が可能なのだが,双極性障害の多くは年余に渡る服薬を余儀なくされる.これをみるだけでも,診断が患者さんの人生と密接にかかわっていることがわかるだろう.そのため,診断は覚悟をもってなされなければならないのだ.“双極性障害” は軽々しく名付けてはいけない疾患名である.なお,抗うつ薬による “躁転” は双極性障害を示唆するが,それのみで双極性障害と診断するのは早計と個人的には思われる.Ⅱ