ブックタイトル治療100巻6月号

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概要

治療100巻6月号

714 Vol.100,No.6〈2018.6〉こんな時にも! 使える漢方はじめに 精神症状において,筆者が頻用している漢方薬は数種類あるが,まずは,そのなかでも使用頻度が高い,柴さい胡こ加か竜りゅう骨こつ牡ぼ 蛎れい湯とうと抑よく肝かん散さんを取り上げたい.柴胡加竜骨牡蛎湯・抑肝散 柴胡加竜骨牡蛎湯の使用目標は,現代医学の言葉に翻訳すると(あくまで近似値的な言い方だが),交感神経の機能亢進状態である.それがいかなる疾患(精神症状のみでなく,がんであれ,月経前症候群であれ)でも,このような状態にある人は(とくにストレスに曝されることが多い現代人には)多くみられる.よって,柴胡加竜骨牡蛎湯が適応する人はかなり多いのではないかと思う.交感神経の過緊張状態は,イライラしやすい,四肢末端の冷え(そこにのぼせが伴うとより適用しやすい),肩こり,安静時・起床時の動悸,入眠困難,歯の食いしばり,常に緊張感が抜けないことを自覚している等で判断しており,これらの所見のうちいくつかのものがあれば,柴胡加竜骨牡蛎湯を投与している.これらの症状や所見は,日常診療において,精神症状に伴ってよくみられるものである. 一方で,抑肝散は,現代医学の言葉に翻訳すると(あくまで近似値的な言い方だが),副交感神経の機能低下による,相対的な交感神経の機能亢進状態によく適応する.たとえば,精神症状であれば,柴胡加竜骨牡蛎湯とは異なり,イライラのみでなく,落ち込みとイライラが共にある状態に用いていることが多い.また,柴胡加竜骨牡蛎湯とのイライラの違いは,柴胡加竜骨牡蛎湯は慢性的にイライラしていることが多いが,抑肝散のイライラは,普段は比較的大人しい状態から,突発的にイライラすることが多い. では,この2剤をどのように頓用で用いているか? 漢方診療とは,つまるところ,多くの症状や所見のなかからどのように判断して,レスポンダーをみつけるということに尽きると常日頃筆者は考えているので,そのコツを,日常診療の経験のなかからお話したい. 柴胡加竜骨牡蛎湯は,前述したような交感神経の機能亢進を示唆する所見がある人の,緊張時の動悸や,スピーチなど人前に出る場面での過緊張状態,また緊張による不眠(入眠困難)時に頓用で処方していることが多い.レスポンダーであれば,しばしば著効をみる.その効き方は,精神安定剤とほぼ同様の印象があり,しかも,柴胡加竜骨牡蛎湯(の構成Ⅰ頓用で使える漢方薬長瀬眞彦吉祥寺中医クリニック/順天堂大学医学部医学教育研究室