ブックタイトル治療100巻6月号

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概要

治療100巻6月号

Vol.100,No.6〈2018.6〉 731抗うつ薬・抗不安薬の前にこの方剤! 精神症状×漢方漢方の陰陽五行説による「肝」に関連する色が「青」であること8)を意識したい.すなわち“カンカンに顔が真っ赤になってイライラして眠れない”というよりは,禁煙(治療)により,一時的に(顔を真っ赤にさせない程度に,青い炎が表情に見え隠れして)怒りがこもっているのが抑肝散の適応のイメージである3).ちなみに,顔が真っ赤になってイライラしているときには,熱を冷ます生薬から構成される,黄おう連れん解げ 毒どく湯とうが適していると考えられる.ただし,黄連解毒湯は漢方薬のなかでも苦みが強く,もし処方する場合には,味についてもあらかじめ伝えておくことが望ましい. また,抑肝散に陳ちん皮ぴと半はん夏げを加えた抑肝散加陳皮半夏という処方もある.陳皮と半夏を加えるといえば,四し君くん子し湯とう+「陳皮・半夏」=六りっ君くん子し湯とうで,六君子湯は食欲不振の代表的な処方である.すなわち,抑肝散の適応があると考えられる症状があっても,普段から消化器症状を感じやすい患者さんや,禁煙や禁煙治療により嘔気や胃もたれなど消化器症状が現れた場合には,筆者は,抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏を用いることにしている. 抑肝散も抑肝散加陳皮半夏も,焦燥感や不眠,消化器症状が起こったときの頓用で内服をまずは勧めるが,頓用内服ではすぐに効き目を感じられないときには,筆者は1日1,2回の定期内服を(飲むタイミングは患者さんのライフスタイルに合わせて柔軟に対応して)勧めるようにしている. 副作用として,抑肝散も抑肝散加陳皮半夏も,構成生薬に甘かん草ぞうを含むので,いずれの処方も連用する場合には,偽性アルドステロン症のリスクを念頭に置く必要がある.甘草は2.5g/日を超えると,偽性アルドステロンのリスクが高くなるとされているが,実際には,2.5g/日以下の投与でも偽性アルドステロン症が起こる可能性はある.具体的には下肢浮腫や血圧上昇,低カリウム血症には注意が必要であるが,自覚症状がないまま,低カリウム血症を呈する場合もある.よって,たとえ浮腫や血圧上昇が認められなくても,抑肝散や抑肝散加陳皮半夏を内服継続する場合には,採血をする機会があれば電解質のチェックも勧める.偽性アルドステロン症を疑う所見を認めた場合には,まず電解質を確認し,漢方薬を減量するか,できれば休薬が望ましいと考えられる. ここで実際に,禁煙治療の副作用対策として,漢方薬を用いたケースを紹介したい.症例60 代,男性.禁煙外来. 40 年来の喫煙歴(30 本/ 日)があったが,今回1 歳の孫の世話を頼まれた際に,家族から喫煙していることを気にされて,これを機に禁煙を決意して来院した.以前に,薬物療法は用いずに禁煙をしたことがあったが,イライラして継続できなかった. バレニクリン内服による禁煙治療を提案したところ,以前のように,禁煙してイライラしたときの対処法の質問を受けた.お茶を飲んだりガムを噛むなどの代償行動や,孫の写真をみることなどを提案すると同時に,漢方薬の内服を勧めた.バレニクリン内服による消化器症状が起こるリスクと,もともとそこまで胃腸に自信がないことも考慮して,抑肝散加陳皮半夏を選択した.頓用内服で希望があったため,抑肝散加陳皮半夏を2.5g/包,頓用(10 回分)処方した. バレニクリン内服を継続し,禁煙外来受診継続,禁煙も継続できた.抑肝散加陳皮半夏については,焦燥感(イライラ)や不眠が起きたときに頓用2.5g/ 回で継続し,自覚症状は自制内となった.