ブックタイトル治療100巻7月号

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概要

治療100巻7月号

Vol.100,No.7〈2018.7〉 837プライマリ・ケア臨床研究効果とバイアスと研究デザイン 研究の価値を高めるひとつの要件は,効果(effect size)が大きくバイアスの影響が小さいことである.大きな効果を検出し,バイアスの影響を低減するためには,研究の設計段階での工夫が必要である.介入研究の場合,臨床有意性を考慮したアウトカムや例数の設計,ランダム化や盲検化などを研究開始前に設計しておくことが,効果やバイアスの多寡に致命的に影響する.お粗末な研究デザインで僅かな効果しか得られなかったものを事後的な統計解析で取り返すことはできないし,それはむしろ研究の再現可能性を低める錯乱(spin)となり得る. 研究デザインの過程では,研究の型の選択も含め,統計学的な吟味が必要な事柄が多い.たとえば,アウトカムの設定は研究デザインの選択や統計解析の方法と密接に関連する.欠損値の取り扱いは高度な統計学的判断が必要であり,研究方法や解釈の妥当性や透明性を大きく左右する.例数設計は,とくに介入研究では研究の妥当性を左右し得る.近年では,傾向スコアや回帰分断モデル,中断時系列デザインなどの擬似実験が臨床研究で応用されるようになり,因果推論でのバイアスの低減に貢献している.これらを適切に設計するためには,研究の早期の段階から統計家の関与が必要である.例数設計 例数設計(sample size estimation)とは,統計学的有意性を得るために必要な例数を研究の開始前に予め見積もることである. 例数設計の目的の1つは,試験参加者の数を必要最低限に抑えることである.臨床研究で頻用される有意確率や信頼区間を用いた頻度主義統計学での仮説検定は,患者や研究参加者を多く研究に組み入れるほど,統計学的有意性を得やすい.その一方で,効果が立証されていない治療法を試行される患者は,可能な限り少数に抑えるべきである.事前に例数設計を行うことで,これらの一見相反する要求を両立することができる. 例数設計のもう1つの目的は,研究の手続きや解釈の妥当性を担保することである.例数設計を行わない場合,「主たる要因に効果がない」,「主たる要因は効果を有するが例数が足りないために検出できない」のいずれであるかを峻別できない.例数設計を行ったとしても,設計した例数をリクルートすることができなければ同じことである.結果を解釈できなければ,研究者,研究参加者,出資者のいずれにとっても,研究にかけた労力と時間と資金がムダになる. このように,例数設計は研究倫理および統計学の双方の見地から必須なのである5).例数設計では,欠損の取り扱いや臨床的有意性など高度な統計学的判断を求められるため,研究の計画段階で統計家に相談しておくとよい.ⅠⅡ