ブックタイトル治療100巻7月号

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概要

治療100巻7月号

Vol.100,No.7〈2018.7〉 773プライマリ・ケア臨床研究を行ううえでの基本的な知識を学ぶとともに,「人間の主観を定量化して評価するための知識」や「よい医療とは何か? ある特定の医療の姿をみたときにそれをどのような方法を用いることで『よい医療』とし,それをコンセンサスとして落とし込むのか?」ということに関する科学的なスキルを集中的に学ぶことができた.この学びは,実は自分のなかではその後の研究活動にダイレクトに生かされるものであったが,当時の自分はその二者の関係についてよく理解していなかった.その意味では,自分がリサーチ・マインドをもって向き合った臨床上の疑問を「研究事業」として応用するスキルをもつ機会ができたというのは,たまたま運がよかったのかもしれない. 1997年に帰国し,筆者が就職した病院(現在勤務中の東京医療センター)は,当時国立の施設であったこともあり,日常の臨床活動と研究活動を自分なりにシェアできる環境にあった.当時施設内には臨床疫学を基盤とする研究の環境は存在しなかったが,疫学を主たる方法論とする研究は基礎研究のようにインフラがなくても事務環境さえ整えば可能であった.さらに運よく連続的に厚生労働科学研究費や科研費などの競争的研究費を獲得し続けることができたため,研究の事務補助者を継続的に雇用し続けることができた.そのうち,事務補助者自身に研究事業をマネジメントするスキルが身につき,無理なく医師としての臨床に従事しながら研究活動も継続することが可能な環境となった.総合診療医と研究 よく筆者は「大学以外の施設で働きながらどうして研究活動を維持できるのか?」という質問を総合診療に従事する他施設の医師からされることがある.その質問に対して筆者は基本的には以下のように答えている. 臨床研究は,①よいリサーチ・クエスチョンを設定すること,②そのリサーチ・クエスチョンに答えることができるよい研究デザイン・研究計画を立案すること,③研究を遂行するための研究グループを作ること,④グループに属した研究者が一丸となって研究計画を計画通り遂行すること,⑤研究結果を論文化すること,の5つの要素がそろえば達成される.①については,少なくともプライマリ・ケア/総合診療の領域では大学病院よりも市中病院の方がずっとリサーチ・クエスチョンをたくさん産む環境にある.②と⑤については,スキルを学ぶ機会の有無が重要で,スキルを学んでしまいすれば環境はどこでもいい.③については,プライマリ・ケア/総合診療の領域ではとくに単施設よりは多施設で行う方が有利.そのためには大学のような垣根が高い施設より,国立病院機構や日赤など,全国にフランチャイズをもつ法人がやりやすい.④については,お金とインフラがやはり必要.しかし,別に遠心分離機があるラボが必要なわけではなく,研究手順をシュアに遂行できる事務補助者とFAXがあればいい.だとしたら大学の優位性はそれほどない. 筆者にとって最もラッキーだったことは,東京医療センターに質の高いアクティブな研究倫理委員会が存在したこと,もう1つは,自分が求めた実臨床,後進医師教育,そして研究活動のエフォート割合について病院の幹部側が快く受け入れてくれたことだと認識しⅡ