ブックタイトル薬局 69巻 2月号

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概要

薬局 69巻 2月号

薬 局 2018 Vol.69, No.2 227 19はじめにがん薬物療法では,多くのがん患者に食欲不振,悪心・嘔吐が生じる.抗がん薬は細胞分裂の盛んな頭髪,爪,皮膚および消化管粘膜細胞などに多くの傷害を引き起こす.さらに,抗がん薬は食欲不振や悪心・嘔吐を引き起こすセロトニンの分泌を促進させる.がんと診断され,医療機関受診歴のある患者2,249人にアンケートを取ったところ,抗がん薬治療経験者の92.3%が副作用に悩み,その中で最もつらい副作用は悪心・嘔吐であり,4位の食欲不振を含めると実に40%が上記症状に悩んでいることがわかった(図1)1).これらの症状にピンポイントで作用する西洋薬は用いられているものの,奏効しないことも多い.近年,このような症状の改善に漢方薬が用いられてきている.その中でも,科学的根拠に基づく作用メカニズムが明らかになってきた漢方薬が六君子湯である.抗がん薬による食欲不振,悪心・嘔吐の発症メカニズム食欲不振,悪心・嘔吐を引き起こしやすい抗がん薬には,シスプラチン,カルボプラチン,シクロホスファミド,ダカルバジン,イリノテカン,ドキソルビシンなどがある.悪心・嘔吐はセロトニン(5―HT3)受容体,ニューロキニン(NK)―1受容体などの活性化を介した嘔吐中枢の刺激により引き起こされる2).前述のように,シスプラチンなどの抗がん食欲不振,悪心・嘔吐がん患者が最もつらいと感じた抗がん薬治療の副作用の1位が悪心・嘔吐であり,食欲不振(4位)も含めると約40%に生じる.食欲不振,悪心・嘔吐を改善する西洋薬は限られている.近年これらの症状の改善に漢方薬が用いられてきたが,その代表例が六君子湯である.六君子湯は,末梢組織で唯一食欲増進作用を有するグレリンの分泌を促し,グレリンシグナルを促進させることが明らかになってきた.抗がん薬で起こる食欲不振,悪心・嘔吐に六君子湯が有効であることが,基礎および臨床研究を通して明らかになってきた.六君子湯以外にも副作用改善を促す漢方薬は用意されているので,トライアルを行い,個別に奏効する漢方薬を見つけることが重要である.■ がん薬物療法の副作用に対する漢方薬の考え方と使い方?? ?上園 保仁1*, 2*, 3) 宮野 加奈子1)国立がん研究センター 1)研究所 がん患者病態生理研究分野2)先端医療開発センター 支持療法開発分野 *分野長 3)中央病院 支持療法開発部門Feature | 副作用への漢方薬活用術