ブックタイトル薬局 69巻 2月号

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概要

薬局 69巻 2月号

24 232 薬 局 2018 Vol.69, No.2はじめに筆者が病棟医だった頃,抗がん薬投与中の患者から「緑色がかった大量の軟便が出始めて止まらない」と切実な訴えがあり,通常の下痢とは違って生命を危険にさらす深刻な副作用となりうることを思い知らされた.その後,便通は数日で元の状態に戻ったものの,栄養状態は悪化してしまい,長い休薬期間を必要とした.また,治療の再開にあたっては投与量を減らさざるを得なくなった.化学療法中の下痢は突然始まり,ただちに重症に至る場合があり,他の副作用,例えば骨髄抑制などのように検査で評価・予測しにくいという特徴がある.もともと上皮細胞から発生することが多い「がん」を攻撃する薬剤は,当然正常な粘膜にも影響しやすい.そして上皮組織で最大の表面積を占めるのは,消化管である.そこではつねづね腸内細菌や外界からの異物とのクロストークで環境をモニターする免疫が賦活され,必要な栄養分のみを取り入れようとする絶妙なバランスが保たれている.この消化管粘膜が一気に破綻すると,バクテリアの血中移行が著しく増える一方,タンパク成分を多量に含んだ体液漏出が進行する異常事態となる.漢方の考え方では,胃腸は飲食物から「後天の気」というエネルギーを得る重要な臓器である.そのため「補剤」と呼ばれる体力低下を回復する処方(十全大補湯,補中益気湯など)は,消化・吸収能を改善する生薬を配合している.曖昧かつ複雑な効能の「補剤」は現代科学の分析手法では扱いにくく,新たに開発することも難しい.しかし臨床的には,急性・慢性腸炎のような軽症でも,重病・難治性疾患に対しても,治療期間の短縮やQOL改善が期待できる有用な手段となる.長期の経過中にさまざまな症状を呈しうる化下 痢がん化学療法時の下痢予防には補剤の漢方がよい適応となる.補剤の漢方には十全大補湯,補中益気湯などがある.半夏瀉心湯はイリノテカンの遅発性下痢に有効である.新規分子標的薬の下痢についても半夏瀉心湯有効例が報告されている.下痢に対する利水剤として,五苓散や柴苓湯も効果が期待できる.■ がん薬物療法の副作用に対する漢方薬の考え方と使い方?? ?星野 卓之北里大学東洋医学総合研究所 医史学研究部 部長