ブックタイトル薬局 69巻 4月号

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概要

薬局 69巻 4月号

薬 局 2018 Vol.69, No.5 2303 101「日本流」の国民皆保険とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ半世紀以上の長きにわたって日本では,「国民皆保険制度」という言葉が「すべての国民が公的医療制度に加入できる(実質的には,加入する義務がある)」状態という本来の定義を超えて,「その公的医療制度でほぼすべての医薬品が賄われる」状態として理解されてきた.本来のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)は,世界的には「すべての人が必要な保健サービスを金銭的な困難なく享受できること」と定義される.UHCの達成度合いは3つの軸,すなわち「保健システムがカバーする人口」「保健システムがカバーするサービス」「患者の自己負担金額」で評価され,必然に「より多くの人に,より多くの保健サービスが,より低廉な自己負担で提供されている」ほど,理想的な状態とされる.それゆえ,「すべての医薬品をカバーすること」は決して必須条件ではなく,いわゆる「皆保険」を導入している国であっても,承認されている医薬品を一律に公的医療制度でカバーするのはむしろ例外的である.承認されている医薬品のうち,「全部」ではなく「一部」をカバーする.もしくは自己負担割合・給付価格などに傾斜をつける……となれば,何らかの基準を用いてカバーの可否や,自己負担割合・給付価格を決める必要が出てくる.諸外国では,この基準の一部として医療技術の効率性・費用対効果のデータを用いる動きが進んでいる.「費用対効果を導入したからアクセス制限(一部の薬のみが給付される)が生じた」という誤解もあるが,そもそもある国のUHCシ国民皆保険,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジと高額医薬品国民皆保険は,すべての人が医療保険に加入できる状態を指すものであり,その保険ですべての薬をまかなうことまでは要求されていない.高齢化や高額医薬品の登場により,何らかの形で保険給付にメリハリをつけなければ,保険システム自体が危機に瀕することになる.単に価格を下げるだけでなく,価値に見合った価格であるか否かをみるのが,正しい費用対効果の評価である.費用対効果「だけ」で保険給付の可否や値段調整をする国はない.他の要素も含めた,総合的な評価(アプレイザル)を通した意思決定が重要である.五十嵐 中東京大学大学院薬学系研究科 医薬政策学 特任准教授Feature | 所得格差時代の薬物治療