ブックタイトル薬局 69巻 4月号

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概要

薬局 69巻 4月号

8 2210 薬 局 2018 Vol.69, No.5はじめに高齢化や非正規労働者の増加により1990年半ばより貧困問題が拡大している.本稿では,貧困の現状,原因,弊害,政策動向について包括的に議論したい.貧困問題の定義と現状1 貧困問題とは貧困状態は,所得や消費といった経済的尺度によって数量的に把握されることになる.では,どの程度の経済状況を貧困状態とみなすのか,すなわち貧困の定義には「絶対貧困」と「相対貧困」がある※1.まず絶対貧困とは生存や健康の維持に必要なカロリーや栄養を欠くような経済状況であり,途上国では依然として課題であるが,先進国では絶対貧困の問題はほぼ克服されている.他方,相対貧困は,その社会での一般的な経済水準との相対比較から把握される.国際的な相対貧困の定義では,中位所得層の50%以下などの貧困ラインとされる※2.先進国における貧困とはこの相対貧困を指すことが一般的である.図1 2)は相対貧困率(以下,貧困率とする)の動向である.ここで少し気をつけないといけないのは,貧困率は分析に使用するデータによって大きな違いが出る点である.図1には国民生活基礎調査と全国消費実態調査に基わが国の貧困問題の現状と展望先進国における貧困問題とは,絶対貧困ではなく相対貧困であり,近年,相対貧困率は全体としては上昇傾向にある.年齢別に相対貧困率の動向をみると,高齢者の貧困率はやや低下傾向にあるが,子供,現役世代の貧困率は上昇している.貧困問題に対応する生活保護,年金といった所得保障制度の給付は抑制傾向にある.また所得保障以外の貧困対策としては,生活困窮者自立支援制度が最近導入された.高齢化の進展や家族規模の縮小に加え,非正規労働者が多い団塊ジュニア世代が中高年にさしかかるにつれて,貧困問題は今後いっそう拡大する.駒村 康平慶応義塾大学 経済学部 教授※1:貧困概念,基準に関する詳細な検討は文献1を参照のこと.※2:当然,世帯人数の大小の影響を取り除く作業を行う.