ブックタイトル薬局 69巻 4月号

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概要

薬局 69巻 4月号

薬 局 2018 Vol.69, No.5 2217 15はじめに「所得格差が拡大した今日,望ましい薬物治療は何か?」「“経済的負担を軽減したい”という患者の訴えにいかに応えるか?」――今回の特集であるこれらの課題は,わが国で格差や貧困という言葉が急速に一般化した2000年以降,最前線で医療者が実感し始めている新たな「問い」と言えるだろう.必要な医療と,患者の経済的状況をどのように折り合わせていくかの議論は,緒に就いたばかりである.本稿では,このような課題に向き合っていくための前提となる患者と医療者の新たな対話的なコミュニケーションとして,Shared decisionmaking(シェアード・ディシジョンメイキング:SDM)を紹介し,「問い」へのアプローチの手がかりを探りたい.Shared decision makingとは何か?医療において患者の価値観を尊重する社会的要請の高まりと,根拠に基づく医療(evidence-based medicine : EBM)の普及を背景に,臨床的な意思決定,そして患者と医療者の合意形成の手法としてSDMが注目されている1-3).SDMは日本語で協働的意思決定,患者参加型医療,共有意思決定などとされるが,まだ定訳はなく,本稿では略語のSDMのままを用いる.臨床の場面では,「患者は医療者,特に医師の指示に従えばよい」という伝統的な医療者の父権主義(パターナリズム)が根強く存在するのと同時に,近年では「患者のことを最も知っているのは患者であり,決めるのは情臨床の場で「患者の意向・希望」にどう応えるか?―Shared decision making(SDM)の視点から―患者と医療者の対話型コミュニケーションとして,世界的にShared decisionmaking(シェアード・ディシジョンメイキング:SDM)が注目されている.SDMは,困難な課題に患者と医療者が共に向き合うことを通して,意思決定と合意形成の両方が並行して行われる.SDMのプロセスとして9のステップが提案されている.医療者はSDMに際して,患者のヘルスリテラシーに十分配慮することが求められる.SDMの視点が,経済格差の拡大した今日の社会において,医療の適切性と患者の経済状況を折り合わせていく手がかりの一つとなることを期待したい.中山 健夫京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野 教授Feature | 所得格差時代の薬物治療