ブックタイトル薬局69巻7月号

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概要

薬局69巻7月号

橋本 知幸一般財団法人日本環境衛生センター環境生物・住環境部 次長医動物学の講座を置かない大学も増え,衛生害虫に関する知識が十分でない医師が増えてきたという.また,人側の体質にも変化が生じ,喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患をもつ患者数も増加し,そこにはいくつかの節足動物が,刺咬などの直接的な加害とは異なるメカニズムで少なからず関与している.ひとたび世界に目を向ければ,発展途上国を中心にマラリアやデング熱などの蚊媒介感染症は,いまだに多くの地域で最も重要な疾病である.ウエストナイル熱,チクングニア熱など,新しい感染症も広がりをみせてきた.そこには媒介害虫も含めた動物の分布域の変化,人や物の地球規模での移動,都市の人口の過密化,貧富の格差の拡大などの要因が重なっている.そこで衛生害虫分野の研究者は,これらの蚊媒介感染症は,いつ日本に入ってきてもおかしくないことを2000年代初期から訴え,不快害虫の経験しかなくなってきている人たちに警告を発してきた.こうした中,2013年にマダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の初の国内発生,2014年に都内におけるデング熱の感染流行というニュースは,グローバルに拡大し続ける感染症リスクの中で,日本が蚊帳で隔離された空間ではないことを気づかせたと言えよう. その後,2016年リオデジャネイロオリンピックの際のジカ熱騒動も手伝って,身の回りの虫に対する日本人の意識が少し転換してきたように思われる.この点で,毎年,殺虫剤や忌避剤の新製品が並ぶ薬局・薬店などでは,顧客から衛生害虫に関する相談も増えてきていることであろう.虫に嫌悪感を示す人に対して,虫と慣れ親しんでくださいというのは難しい.まずは各種衛生害虫がどのような害を及ぼすのかを,適切に説明し,理解してもらうことが大切である.怖い部分ばかりを殊のほか強調して,何でもかんでも殺虫剤で対応することは避けたい.大切な顧客だからこそ,殺虫剤や忌避剤の適切な使い方を理解してもらうべきである.この特集では衛生害虫に起因する健康被害やその対処法などについて,各分野で活躍中の現役の先生方にご執筆いただいた.中には今まで誤解していた部分や,目から鱗が落ちるような内容もあることであろう.顧客に対する説明の一助となるように活用していただければ幸いである.特 集衛生害虫とは,人の健康に肉体的,精神的に悪影響を与える害虫を指す.衛生害虫はさらに,感染症を媒介する媒介害虫,感染症は媒介しないが,刺咬や皮膚炎などの実害に至る有害害虫,実害はないが,精神的に不快感や恐怖心をもたらす不快害虫に区別されることが多い.数年前まで,日本で人の命を脅かすような害虫というと,年間数十件の事故を起こすスズメバチ類が代表的な存在であった.清潔志向の日本人は,居住環境やその周辺から虫を排除し,最近は殺虫スプレーの特集にあたってパッケージにあったゴキブリのイラストすらなくなっている.住宅では気密化,乾燥化が進み,それに伴って住宅内の害虫相も単調化してきた.こうして身の回りから,媒介害虫や有害害虫はめっきり少なくなり,日本人にとっての衛生害虫とは,もはや不快害虫ばかりという時代になってきた.そのことは,快適な生活を送る上では歓迎すべきことではあろう.しかし,身近な虫を排除することで,覚えておかなければいけない有害な虫への対処の仕方まで忘れてしまった人も増えている.医学部では医療従事者が押さえておきたい基礎と実践6 2648 薬 局 2018 Vol.69, No.8 薬 局 2018 Vol.69, No.8 2649 7