ブックタイトルRp.+2016年冬号

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概要

Rp.+2016年冬号

経口抗凝固薬サラッと納得!薬物治療の本質を理解するための基礎知識Vol.15,No.1 033ラートではなく,添加物の酒石酸であることが大きな原因と考えられます.たしかに添加物が吸湿しても,主成分自体の効果発現や薬理活性に何の問題もなければ,薬剤師Aの考えは必ずしも間違っているとは言えません. では今回のケースで,皆さんなら薬剤師AにプラザキサR を一包化調剤できない理由をどのように説明しますか? それとも,説明はせずに「薬はお菓子じゃない!」という一言で強引に納得してもらいますか? 実は,添加物である酒石酸が吸湿すると,主成分のダビガトランエテキシラートの作用発現に影響を与えてしまうと考えられるのです.このことは,化学構造式を活用して考えるととてもわかりやすく理解でき,薬剤師Aに説明できます. まず,皆さんもよく知っているバファリン配合錠A81で考えてみましょう.本剤では,空気中の水分によって錠剤の外観が変色しますが,それ自体が長期間にわたる一包化調剤ができない根本の理由ではありません.バファリン配合錠A81の添付文書には,主成分のアスピリン(アセチルサリチル酸)が,空気中の水分によりサリチル酸と酢酸に加水分解される(図1)ことが明記されています.アスピリンはシクロオキシゲナーゼ(COX)のセリン残基をアセチル化することで薬理活性を発揮するのですから,加水分解でアスピリンがサリチル酸になり,肝心のアセチル基を失っては作用を発揮するはずがありません.つまり,バファリン配合錠A81の吸湿による本質的な問題は,アスピリンが加水分解により薬理活性を失うことであり,錠剤の変色は「アスピリンの力価が低下した」という薬剤師へのメッセージと捉えるべきなのです. それでは,プラザキサR はどうでしょうか? 著者らは当初,プラザキサR の吸湿性に関して「吸湿すると製剤はどうなるのか?」と質問したところ,製薬会社から発信される情報はカプセルの変色や軟化に関するものにかたよっており,肝心の主成分であるダビガトランエテキシラートの影響に関する情報はなかなか入手できませんでした.ところが,「吸湿による主成分の化学構造変化に問題はありませんか?」という質問に変えると,「ダビガトランエテキシラートの加水分解が進行し生成すると推定される加水分解物が,インタビューフォームに記載されている」という情報を得ることができました.図1 アスピリンの加水分解アセチル基CH3OOO OHOHO OHCH3OHOアスピリン(アセチルサリチル酸)加水分解サリチル酸酢 酸